ギリシャおよびローマ文学には欠かせない存在なのが「トロイ戦争」のお話。
ラテン文学の最高傑作との呼び声高いヴェルギリウスのアエネアスやギリシャの大詩人ホメロスのイリアスとオデュッセイアなどの舞台にもなり、後世には18世紀の戯曲家ラシーヌがアンドロマックの舞台にもしたことで有名。
*トロイア戦争について解説動画を作りました。
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ことの発端は結婚式
ギリシャ神話では神と人間が結ばれたりする。
この時はペレウスと海の女神テティスの結婚式だった。
ちなみにこのペレウスという青年はこれ以前に結婚していて、相手はあのアンティゴネー。ぴんと来ないかも知れないがオイディプス王の娘である。母親はオイディプス王の母親…
アンティゴネーはペレウスの不義を疑って自死を選ぶという悲劇的な結末を迎えるのだが、生まれてから死ぬまで人類のもつあらゆる不幸を背負ったような人生だったな…
さて、話を結婚式に戻そう。この結婚式はあらゆる神々や王族が呼ばれていた訳だが、厄災の女神エリスだけは呼ばれていなかった。
当たり前だ、結婚式にそんなの呼ぶわけない。
が、エリスは激怒した。かの暴虐な結婚式を台無しにしなくてはならない。
エリスは黄金のリンゴに「最も美しい女神へ」と書いて結婚式場に投げ入れるという暴挙にでる。ギリシャ神話に詳しい人間ならわかると思うが、これはかなりヤバイ。
案の定ヘラ、ヴィーナス、アテネの3女神がこれを取り合うこととなった。まるで地獄絵図だっただろうな…
3人とも戦闘力ヤバすぎうちなので争いは終わらず、ついに大神ゼウスの出番となる訳だが、奥さんや娘が怖いゼウスはあろうことかパリス王子に決めてくれと頼む始末。俗にいう「パリスの審判」である。
どうしても負けたくない3女神はあの手この手でパリス王子を誘惑する。
ヘラは地上の覇権を、アテネは必勝不敗を、ヴィーナスは最高の美女をそれぞれ与えると約束。
パリス王子は悩むこともなくヴィーナスを選んだ!
結局男って綺麗な女性を選ぶんだよね。
ヴィーナスは約束を守るために世界一の美女ヘレネをパリス王子のもとへ連れてくるのだが、そもそもヘレネは人妻でスパルタ王メネラウスの妻である。
そう、数万の大軍にたった300人で突撃を繰り返したあのスパルタである。
メネラウスが激怒した。そして兄のミュケナイ王アガメムノンと共にギリシャ軍を組織する。
トロイは今のトルコのあたりにあったと考えられ、所謂黒海貿易を牛耳っていたと言われていて、元からギリシャ諸勢力との仲は悪かった。それがこの事件によって爆発したと言えるだろう。バルカン半島は太古からずっとヨーロッパの火薬庫だったのだ。
戦いは件のペレウスとテティスの息子アキレウスの活躍もありギリシャ側に有利にだったのだが、総大将であるアガメムノンとアキレウスが不和になってしまう。
原因はアキレウスがアガメムノンとアポロンの神官である娘との仲を引き裂いたことに対して憤慨し逆にアキレウスの妾をとってしまうという…
お前ら国の一大事に何やっとんねん!
アキレウスは完全にへそを曲げてしまい、しょうがないのでパトロクロスという武将がアキレウスの鎧を着て戦線に出ることに。敵はアキレウスの姿を見ただけで逃げまどっていたわけだが、トロイの第一王子であるヘクトールがパトロクロスを撃破、親友の死にアキレウスはようやく戦線復帰、ヘクトールを打ち取りその遺骸を馬車に括り付け引き回すという行為に出る。
トロイ王のプリアモスはたった1人で敵軍まで息子の亡骸を引き取りに来て、それを見たアキレウスが哀れに思うところでイリアスは終了する。
ホメロスの叙事詩は実は24篇からなっていたらしいが、現在では散逸してしまいイリアスとオデュッセイアの2篇しか残っていない。それでも民間伝承や二次創作などで物語は残っているのでそこからもとの物語を伺い知ることができるのだという。
はてさてアキレウスには1つ弱点があった。もはや体の一部の名称がネタバレになっているが、ご存知アキレス腱である。
アキレウスは母であるテティスにより身体を冥界の水につけたため不死身であったのだが、その時にアキレス腱の部分を持っていたためにそこだけは弱点だった。
それをトロイの王子にしてことの発端でもありヘクトールの弟でもあるパリス王子が弓で射貫く。
「死して冥界の王になるより生きて農奴となる方が良い」という言葉を残してアキレウスはこと切れる。
一方のパリス王子もフィロクテテスの毒矢を射られ瀕死の重傷に。唯一の解毒方法をしっているのが前妻であるオイーニ。皆さまはこの物語の最初を覚えているだろうか?
パリス王子はヘレネと結婚するためにオイーニと離婚していたのである。
当時のギリシャは圧倒的男性社会で、父権優位の時代であった。夫に離縁された妻の恨みたるやすさまじいものがあり、オイーニは結局パリス王子を助けなかった。
…登場人物が悉く女性で失敗しているのは笑っていいのか悪いのか。
トロイの木馬と智将オデュッセイア
イリアスの他に現存しているのがオデュッセイアな訳だけど、この人物こそが有名なトロイの木馬作戦を立案した人物である。
オデュッセイアはギリシャにある小国イタカの王で、ギリシャ全軍を一時期撤退…させたかに見えてデカイ木馬の中に隠れるというとんでもない作戦を立てた。
この作戦にトロイの神官ラオコーンは気づいていたわけだが、ギリシャ軍に味方する女神アテネの放った毒蛇にて絶命させられてしまう。なおこのラオコーンはローマ人の祖と言われるアエネアスの叔父でもある。
かくして「トロイ戦争」はギリシャ側の勝利となり、話はオデュッセウスの冒険へと移っていくのである。
トロイ戦争は実在した?
かなり長い間トロイ戦争は実在しないと考えられてきた。実際今も実在したかどうかの結論は出ていない。
日本で言うなら神武天皇が実在したかどうかという話に近いかも知れない。
ドイツのハインリヒ・シュリーマンという男がその熱情をもってトロイアの発掘を行いその遺跡を発掘することに成功した。トロイアのあたりに巨大な王国が存在していたことはそれで証明されたものの、実際にギリシャとトロイの間で大規模な戦闘があったかどうかは定かではない。
もう少し科学技術とかが発展したら全容がわかる日が来るかも知れない。
そう考えると考古学はやはりロマンだ!