ブルータスよお前もか!カエサルを暗殺した2人のブルータスについて

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主にシェークスピアの影響なんだろうけども、カエサル暗殺の主犯はブルータスだと思われているようだが、実際にはカシウスという人物が主犯である。

カエサル周りに関しては、シェイクスピアによって大分ゆがめられているよなぁという印象。歴史観さえも自分の色に染めてしまうシェイクスピアは大したものだが、後に有名な批評家バーナード・ショウからシェイクスピアはカエサルを知らないとまで言われてしまう始末。カエサルはともかくあれじゃあポンペイウスが可哀そうだ。

でもシェイクスピアはエドワード・ギボンはもちろんモムゼンよりも前の人だし。ネットとかもない時代の人なんだから仕方がないと思う。彼は歴史を研究していた訳ではなく面白い戯曲を書くのが仕事だったのだから。

そしてもう一つ、カエサル暗殺に加担したブルータスは実は2人いる。

このことは知っている人の方が少ないんじゃないかと思うんだけど、カエサルの暗殺犯は40人ぐらいいたと言われていて、その中には2人ブルータスという名前の人物がいた。

1人はマルクス・ユニウス・ブルータス、カエサルの生涯の愛人であったセルヴィアの息子。

もう1人はデキムス・ユニウス・ブルータス・アルビヌス、カエサルがオクタヴィアヌスが何らかの理由で後継者になれなかった場合に自分の跡を継がせようとしていた人物である。

カエサルが言った「ブルータスよお前もか!」のブルータスはデキムスの方だったと言われているが、シェイクスピアのジュリアス・シーザーには出てこない。戯曲としてはある意味そちらの方が親切なのかも知れない。

という訳で今回は2人のブルータスについて見て行こう!

 デキムス・ユニウス・ブルータス・アルビヌス

まずはデキムスの方のブルータスから行ってみよう。

彼はカエサルの遠縁にあたり、同名の父は紀元前77年にコンスル(執政官)を務めている。

カエサルにはかなり気に入られていたようで、ガリア遠征にも従軍し、いくつかの戦功を挙げている。カエサルの評価は公正で確かなものだったので、後継者候補として名が上がるほどに才能があったのだろう。カエサルの右腕としていくつもの戦功のあるアントニウスは後継者候補ではなかったし、息子とされるカエサリオンの名は遺言状にはなかったほどだ。

だからこそデキムスが暗殺団にいたことに驚いたのだろう。

そんな彼がカエサル暗殺に加担した動機などは不明だが、従兄弟であるマルクス・ブルータスに誘われて参加したという説が濃厚である。ローマは王制から独立して以来、共和政に命をささげることを市民は何よりも重視してきた。

だからスキピオ裁判は起こったし、カエサルの暗殺事件も起こった。

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ローマのディクタトル(独裁官)の任期は半年であったし、終身独裁官になったスッラはすぐに自らその地位を降りている。

終身独裁官になりまるで王の如き専制を行ったカエサルを、まるで父のように慕っていたにも関わらずデキムスは、その暗殺に加わったのであった。

後日カエサルの遺言状の内容を知り、デキムスは酷くショックを受けたという。あるいはカエサル暗殺の動機は、自分が十分に認められていないと思ったことにあったのかも知れない。

悲しいかな認められていなかったのはデキムスではなくアントニウスの方だったのだが…

カエサル暗殺後はカエサル派との闘いに明け暮れることになり、アントニウスとレピドゥスの連合軍に敗れ、その途中で殺されることとなった。

カエサルの人気はすさまじく、その暗殺犯たちに安息の場所などなかったのであった。

マルクス・ユニウス・ブルータス

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カエサルは生前、スケベなハゲという綽名で呼ばれていた。カエサル自身もそれを喜んでいたというのだから笑ってしまうが、中々節操がなかったようで、元老院議員の妻の3人に1人がカエサルの愛人だったという話まである。

事実共に3頭政治を行ったポンペイウスやクラッススの妻もカエサルの愛人だった。

そんなカエサルの一番の愛人がマルクス・ブルータスの母セルヴィアであったのだ。そのためカエサルも珍しく能力に関係なくマルクスを優遇していた。

マルクス自体ローマきっての名門で、共和政の始祖ともいわれるルキウス・ユニウス・ブルータスの末裔で、閥族派の元老院議員でもあった。カエサルを忌み嫌っていた小カトーの娘ポルキアとも結婚し、生涯にわたって反カエサルの行動をとることになる。

マルクス・ブルータスは阿漕な金貸しとしても有名で、年利48%という闇金も真っ青な金利での貸し出しをしキケロなどから顰蹙を買っていた。

そんな人間だったので当然のように全く人気はなかったのだが、息子のいなかったカエサルはマルクスを本当の息子のようにかわいがっていたという。

ただしマルクスから見れば母を取った存在であったので、カエサルに対してはエディプスコンプレックスがあったのかも知れない。ある意味カエサル暗殺というのは心理学用語でいう父殺しに相当するのだろう。

マルクス自体は以前からカエサルを嫌っていたようで、ファルサロスの戦いなどではポンペイウス側について戦っている。その際、カエサルは全兵士にブルータスだけは傷つけないようにとのお触れをだしていたというのだからその優遇ぶりは相当のものであっただろう。

生きるか死ぬか、死ぬ可能性の方が高いのにそのようなことを考えられるカエサルはやはり大物だと思ってしまうのだが、マルクスはそうは思わなかったのだろう。

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カエサルは自分に敵対したマルクスを赦し、抱きしめ、プラエトル(法務官)に推薦しさえした。

だがマルクス・ブルータスはカエサルを殺した。

「専制者は斯くの如く」

そう言って凶行に及んだのだという。

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共和政の祖を先祖に持つが故か、単に母を取られた恨みを持っていたためか、あるいはその両方か、後にルネッサンス期に活躍したダンテはその代表作「神曲」にて、イエスを裏切ったユダや実行犯のカシウスとともに歴史上3大裏切り悪人として永劫にサタンに噛まれ続けるという罰を受けているさまを描写される。

後世でさえこのような感じなのだから、ローマ市民の間ではブルータス死すべしという機運が広まっていた。

それでもすぐに殺されなかったのは、遺言状に自分の名前がなかったことに愕然とし、正当な後継者であるオクタヴィアヌスに対抗するためにアントニウスと手を組んだからであり、それも第二次3頭政治が始まると「ペディウス法」が制定され、カエサル暗殺犯は裁判抜きで死刑にできるという状態になった。

マルクスは広大なローマを逃げ回り、ギリシャを武力で制圧すると重税を課し10万にも及ぶ兵団を組織し、カシウスと共に第二次三頭政治をフィリッピで迎え撃った(フィリッピの戦い)。

アントニウスはカシウスと、オクタヴィアヌスとその副官であるアグリッパはブルータスと戦い、ブルータスは勝ったもののカシウスは惨敗し戦死した。

もはやこれまでと悟ったブルータスは、生きる気力をなくし、最後は自害をして果てた。

古今東西、裏切り者の末路とは虚しいものである。