ローマの歴史は1000年と長く、その中には良妻賢母タイプの女性も多数いるがそれと同じぐらい「悪女」と呼ばれるタイプの女性たちもいる。
今回はそんな時代を彩る悪女たちについて見て行こう。
第8位ゼノビア
ゼノビアは正直他の女性たちに比べたらかなりマシな部類であろう。
彼女は軍人皇帝時代にローマ帝国が3分化された際にできたパルミア帝国の女王であり、自らをクレオパトラの後継者を自称して国中から富を集め、常に大量の宝石を身に着け、その重みで上手く歩けなかったと伝えられるほどである。
証拠はないがゼノビアは夫であったパルミラ帝国の王オダナエスを先妻の息子ともども甥のマエニオスをそそのかして暗殺し、このマエオニウスを即座に処刑している。
次代の皇帝には自らの息子ウァバッラトゥスに継がせていることからその可能性は非常に高いと言えるかも知れない。
その後はローマ帝国のアウレリアヌス帝との闘いに敗れ、ローマに連れていかれて凱旋式で見世物にされるもその後は元老院議員と結婚し、子どももでき、結果的にアウレリアヌス帝よりも遥かに長生きし、静かに余生を過ごしていたというから誰が勝者なんだかよくわからない。
ローマに敗れた際には、自分は操られていただけだと主張し高官たちに罪を着せ、その高官たちは処刑された者のゼノビアだけは生き延びたという。
ゼノビア自身は母国語のエジプト語以外にもギリシャ語やラテン語、シリア語やアラビア語などが使えたと言われ、エドワード・ギボンは彼女のことを「オリエント世界で屈指の女傑」と評価している。
第7位:ユリア・メサ
セプティミウス帝の妻であったドムナ・メサの妹で、世界史上最低の暗君でもあるヘリオガバルスの祖母であるユリア・メサも中々だ。
彼女は幼きヘリオガバルスを兵士の前に連れていき、この子こそカラカラ帝の隠し子であるとして兵士たちを掌握し、当時ローマ皇帝であったマクリヌス帝を打倒し、ヘリオガバルスを次の皇帝に据えた。
この程度で負けるのだからマクリヌス帝は弱すぎるが、ユリア・メサは東方の神官の家系に生まれた不思議な力を持つ人物で、人心の掌握がうまかったという。
彼女はヘリオガバルスを連れてローマに入り、元老院に自ら信奉する神の像を配置するとそれを崇拝させるようにさせ、少年と言っても良いヘリオガバルスを陰から操った。
ヘリオガバルス帝はローマ史の専門家であるエドワード・ギボンをして世界最悪の君主と呼ばれた皇帝で、その内容はあまりにもすさまじくこのブログには書けないレベルで退廃し、狂っていた。
ユリア・メサも孫を全くコントロールできなくなったために近衛隊に命じてこれを殺害させ、その弟のアレクサンデルを次の皇帝に据えると静かに息を引き取った。
権力の為には孫をも利用し、その命さえも奪うというのはなかなか酷い女性である。
第6位:テオファノ
このブログでは「ローマ」はロムルスから西ローマ帝国最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスまでとしているので、東ローマ帝国の人物は本来ランクインさせない方針なのだが、あまりにもひどいのでランクインさせた。
テオファノは絶世の美女だったと伝えられ、経緯は不明だが庶民の生まれであるにも関わらずロマノス2世の皇后になった。
伝説によればロマノスが皇太子時代に怪我を負って一時的に駆けこまれた家の娘であったという。
あるいは西太后のように皇太子の妃を大々的に募集した結果かも知れない。
いずれにせよロマノスは皇帝となった。ロマノスの父コンスタンティノス7世は元気であったにも関わらず突然死んだため、現代でもテオファノが殺したという説が根強い。
ロマノスは暗君として知られ、テオファノは彼の代わりに愛人でもあったニケフォロス・フォカスと共に政治を掌握、自らの競合相手になりそうなロマノスの妹たちを尼にして修道院に送り、ロマノスの母である姑のヘレネをいびり殺す。
その後ロマノス2世も若くして急死してしまい、後ろ盾のなくなったテオファノは愛人のフォカスと結婚、息子たちを東ローマ皇帝にすると自らは摂政となり政治の実権を握った。
ロマノスの家臣たちはこれに反対したが、フォカスを使ってこれらを鎮圧し、反乱に加わったものを次々と処刑、そのうち夫であるフォカスにも飽き、その甥であるヨハネスを愛人としフォカスを暗殺、ヨハネスを皇帝とした。
しかしここでテオフォノにとって予想外のことが起こった。
コンスタンティノープル大司教がヨハネスへの戴冠を拒否、その後フォカスの殺害をテオファノに頼まれたと自供、テオファノを宮廷から追放してしまう。
その後テオファノは島流しになるも脱出し、再びヨハネスを誘惑するも通じず二度目の島流しにあうも息子たちが皇帝になると再び帝都コンスタンティノープルに帰れたという。
第5位:ルチッラ
コンモドゥスは映画グラディエイターの悪役になるほど知名度の高い悪帝であるが、アウレリウス帝が皇帝の地位にあった時にはまだまともであったという。
コンモドゥスがおかしくなったのは実の姉であるルチッラによるコンモドゥス暗殺事件があったからだと言われている。
彼女は帝位を狙って弟を亡き者にしようとし、下手人を放ってそれを実行、一説にはコンモドゥスの妻が妊娠したことで自らの地位が低下することを恐れたのだという。
そのルチッラは島流しにあい、そのすぐ後に死亡している。
この事件よりのちにコンモドゥスの悪政は加速し、歴史に名を遺す暴君になるのであった。
第4位:ユリア・アグリッピーナ
悪名高きローマ皇帝ネロの母親にして初代皇帝アウグストゥスの血を引く小アグリッピーナことユリア・アグリッピーナの悪女度も高い。
彼女に関してはどれが本当でどれがウソかわからない面もあるが、幼き日は兄であるカリギュラとの乱れた関係が噂され、夫であった皇帝クライディウス帝を暗殺して息子のネロを皇帝とし、そのネロとの関係も持ったという。
やがてネロがコントロール不能になると別の人物を皇帝に据えようとするもネロの放った資格によって暗殺される。
「ネロはここから生まれてきた。ここを刺しなさい」という言葉を残して死んだと言われており、「アグリッピーナコンプレックス」という言葉は彼女からきているという。
第3位:トゥーリア
王政ローマ最後の王タルクィニウス・スペルブスの妻にして先王セルヴィス・トゥリウスの娘であるトゥーリアの悪女ぶりはかなりのものがある。
元々トゥーリアもスペルブスも別々の相手と結婚していたのだが、お互いが同時に伴侶を亡くしたため2人は結婚。
2人は結婚する前から男女の関係であったらしくお互いの伴侶をそれぞれ殺害したという説さえある。
結婚してすぐに夫となったスペルブスをそそのかして父であるトゥリウス王を襲わせ、まだ息のあった父を馬車で引いてとどめを刺す。
その後は夫と組んで自分たちに都合の悪い元老院議員を次々に処刑していき、恐怖政治を展開するも息子であるスクストゥスが起こしたルクレティア事件を契機にローマ市民の怒りが爆発、一族はローマを逃げ出すように去る。
これを機にローマは王政から共和政に移り、その後滅亡までの1000年間二度と王が現れることがなかった。
後世ローマ市民は王の出現を嫌い、独裁者になろうとする者はカエサルを始め皆暗殺されたが、ローマの王嫌いを決定づけたのが最後の王タイクィニウス・スペルブスであり、それを陰から操っていたと言ってもいいこのトゥーリアだと言える。
第2位:メッサリーナ
メッサリーナは第四代ローマ皇帝クラウディス帝の妃で、35歳差の結婚であった。
クラウディウス帝はこれで3度目の結婚であったが、彼は家庭生活にはまるで興味がなかったらしい。
メッサリーナは次から次に浮気をし、それでは飽き足らず自ら娼館に足を運び多い時では一晩で20人もの客をとったという。
メッサリーナは夫クラウディウス帝の名前で好き放題を行い、気に入らない人間は処刑、気に入らなくなくても財産が欲しければ無実の人間でも死刑にしその財産を没収するという悪女というよりももはや暴君で、最後は何を血迷ったか愛人であった元老院議員シリウスと結婚し、ローマで禁止している重婚の罪で死刑となる。
夫であったクラウディウスはとことんメッサリーナに興味がなかったようで、彼女の死を聞いても眉一つ動かさずに食事を続けていたという。
実際にメッサリーナが処刑した人物の中にはネロの妻となるポッペアの母親やローマ一立派な庭園をもっていたヴァレリウス・アジアティクスなどもおり、前者はお気に入りの俳優がとられたことで、後者は単に庭園が欲しくて罪をでっちあげたのだという。
それを認めて死罪とする書類にサインをしたというのだから、やはりクラウディウス帝は悪帝というべきなのだろう。
自身は真面目に仕事をしていたようだが、妃が少しやりすぎた・・・
第1位:クレオパトラ
やはりローマにおける悪女ナンバー1はクレオパトラしかいないであろう。
「クレオパトラの鼻があと3cm低かったら歴史は変わっていただろう」とはパスカルの言葉だが、クレオパトラは確かに歴史を変えた悪女だと言える。
クレオパトラは10代で弟のプトレマイオス13世との共同統治者となったのだが、弟との折り合いが悪くクレオパトラはエジプトを追放となってしまう。
ちょうどその時ファルサロスの戦いで勝者となったカエサルがポンペイウスを追ってエジプトにやってきた。
これ幸いとクレオパトラは女好きで知られるカエサルをたぶらかしその色香で魅惑してしまう。
カエサルとの間にカエサリオンをもうけるとローマ本国へ移り女王然とした。
カエサルが暗殺されて後継者にはカエサリオンが選ばれると思っていたクレオパトラはオクタヴィアヌスという聞いたことがないわずか18歳の青年にすぎないオクタヴィアヌスがカエサルの後継者になったと聞いて憤慨、ローマを後にしてエジプトへと帰国してしまう。
ローマの覇権が欲しいクレオパトラはカエサルの部下の中でも特に有力であったアントニウスを誘惑、事実この段階ではアントニウスはカエサル暗殺犯であるカシウス・ロンギヌスを撃破していたが、オクタヴィアヌスはブルータスとの闘いに敗れていた。
アントニウスは比較的戦闘の才のある将軍であったが、クレオパトラに魅了されてしまってからは腑抜けてしまい、ローマの東方の土地をクレオパトラにそのままプレゼントしてしまう始末。
このような状態のアントニウスは多くの将兵に見捨てられ、戦闘にも極端に弱くなり、東方のペルシャ勢力との闘いにも敗北してしまう。
それでも未だに勢力をもっていたアントニウスは陸戦にてオクタヴィアヌスを撃破する作戦を考えるが、クレオパトラは拒否。海上での決戦をねだる。
この結果アントニウスは得意でもなんでもない海上での決戦を決意し、アクティウム海戦に臨む。
会戦と同時に不利が明らかになるとクレオパトラは戦場から逃げ出してしまい、部隊を指揮しているアントニウスもこれを追って戦線離脱。
遺された兵士は戦う意思もなくオクタヴィアヌスに降伏。
追ってきたアントニウスには自身の死亡という偽の情報を伝え自殺に追い込み、自らは覇者となったオクタヴィアヌスへの色仕掛けを行う。
しかしオクタヴィアヌスはこれを撥ね退け、全てを観念したクレオパトラは自らの首を毒蛇に噛ませることで自ら命を絶ったのであった。
己の権力欲の為にアントニウスをはじめとした多くの将兵の命や心をもてあそんだクレオパトラは、世界史全体で見てもトップクラスの悪女だと言えるだろう。
クレオパトラに関しては悪女のイメージはなさそうな上にローマの人間ではなくエジプトの王女であるが、やはり他の人物とは格が違うという気がするし、シェイクスピアの「アンソニーとクレオパトラ」の主人公でもあるし、やっぱり一位に相応しい格をもった人物ということで1位にした。
今回はローマでのトップ10だったけど、良かったら次の記事も読んでくれよな!